小説
心休まる人という皮肉 「先輩、今日は嫌なことがあったんで一杯付き合ってくれませんか?」 矢島が吉彦を帰りに誘う常套句である。 焼き場からは香ばしい薫りが立ち込めて、店内は焼鳥の美味しそうな匂いで溢れていた。 コの字になっているカウンターからは…
幸子と吉彦の出会い 「ただいま〜」 周りは何処の家も寝静まろうとしている中、玄関の扉が開いたのは夜の11時過ぎである。 週に一度は、幸子がこうして日頃の鬱憤を吐き出すように、一頻り遊んで帰って来ることが夫婦間では通例のこと。 「何か食べてきたか…
幸子と朋子のアフタヌーンティー 幸子が朋子といつものようにアフタヌーンティーに出掛けた。二人の行き先は、街の高級なシティーホテルの高層階にあるカフェレストラン。 日頃味わうことのできない贅沢で優雅な空気を味わいながら会を楽しのである。 お決ま…
ずっとあなたの側にいてあげられない 暖かな日差しが戻った朝と昼との間の静かな隙間、吉彦はまだ眠気の醒めない中にいて、まだ体の端々に残る気怠さに身を委ねていた。 カーテンの少しの隙間からでも明るい日差しが差し込んで、無邪気に自慢する子供のよう…